この記事の目次
グラデーションはとっても簡単!
実は、グラデーションって誰でも簡単に使いこなせて、しかも絵が少しだけうまく見える超便利な技法なんです。
なぜかというと、自分がそうでしたが、小中高とそれまで透明水彩絵の具を使用してきて、そののちアクリル絵の具やガッシュ(不透明水彩絵の具)や油絵具に手を出すようになりましたが、透明水彩絵の具とは違って思ったように使いこなせなかった時期がありました。
ポスターカラーでグラデーションと出会った!
幼いころから中学1年くらいまで地元の絵画教室に通っていて、そこでの透明水彩絵の具の使い方は、パレットの上では色を何種類も出さずに基本となる2~3色に絞り、しかもパレットの上ではごてごてと混ぜ合わせることは良くないということで、画用紙の上で水をたっぷり使って色を薄めて、3原色を混ぜたりぼかしたり、白を少し足したり、黒を少し足したりしてぼわーっと画面上で調整するやり方でした。
高校生になっても透明水彩絵の具を常用していましたが、ゴッホやピカソやら有名画家のごつごつとした質感の油絵作品を見るにつけ、透明水彩絵の具では物足りないなと思い始めていました。
そんな折に高校の美術の授業で、ポスターカラーなるものを初めて使用しましたが、これは不透明な画材であり、水で薄めても思うようにはいかず、人物の顔を描くという課題に対して、ほとんど原色そのままのカメレオンのような顔に仕上がったのを覚えています。
その課題が終わってから、授業で初めてグラデーションという技法を習いました。
ただ単純に濃い色に白をちょっとづつ混ぜていって、段々に色を変化させるという技法です。
ところが、これがポスターカラーにはぴったりの技法で、簡単にしかもうまく描くことができました。これは面白い技法だなと思いました。
アクリル画→オイルバー変遷
それから高校を卒業して美大ではない普通の大学に進学しました。(鉛筆デッサンにはどうしても興味が持てず、美大を受験する気にはならなかったです。昔から興味が持てないものは全く取り組めないということがあって、どうしたものかと思っていましたが、最近になってそれがASDと呼ばれていることに該当するようだと気づきました。)
大学では美術部に入部して周りの先輩の描く、てかてかの油絵に圧倒され、油絵を始めてみようと思いましたが、なかなか絵の具が乾かないのを横目で見て断念し、乾きの早いアクリル絵の具を使うようになりました。
しかし1アクリル絵の具で10枚ほど作品を作ったところで、質感がどうしても油絵に比べて薄っぺらいことが気になりやめてしまいました。グラデーションのことはすっかり忘れており、原色表現が主体でした。
その次に選んだ画材は、当時新画材として発売され始めていた、”オイルバー”という油絵の具を棒状に固めたもので、これはクレヨンのような感覚で直接キャンバスにこすりつけて塗ることができて質感も良く、そこそこ楽しめました。
しかし、結局細かい部分は筆を使って塗っていたのと、色の種類が少なかったのと、良く減る割には値段が高いということで、ほどなくしてオイルバーも使わなくなりました。このときもグラデーションを忘れており、原色表現が主体でした。
油絵(べた塗り)期、写本画との出会い
そこでやはり、油絵をするべきと思い直し、部室に転がっていた油絵の具を拝借して作品を作るようになりました。
下が油絵の具を使って描いた絵です。
混色はほとんどせず、のっぺりとした、べた塗りです。
たまたまこのころ、大学の図書館で西洋中世絵画(写本画)の画集を見つけ、こんなにへたでも惹かれる絵があるんやと非常に驚き感銘を受けました。
写本画は遠近法もめちゃくちゃで人物の大きさも重要人物は最大サイズで、それ以外は10分の1ほどの大きさに描かれていたり、衝撃的ですが面白いと思いました。
そういった写本画の影響下で描いた絵です。ここでもまだ、グラデーションは使っていません。
テンペラ画(ガッシュ絵の具) を始める
そうこうしているうちに、今度は先輩から油絵でテンペラもできるよと聞いて、テンペラ?ん?と思いながら、辞書で調べてみたら(ネットはまだない時代です)、西洋中世絵画の技法で、フレスコやガッシュ絵具(不透明水彩)を使用して、卵を使うと書いてありました。
そこでさっそく画材屋さんに行って、ホルベインの画材パンフレットを頂いて、そこに書いてある処方で、卵をダンマルワニスとサンシックンドリンシードオイルと混ぜ合わせ、絵の具に添加するメディウムを作りました。
パンフレットには、このメディウムに顔料を混ぜ合わせて発色の良い絵の具が出来上がると書いてありましたが、顔料まで自分で用意して絵の具から作るのは、正直考えられなかったので、ちゃんとチューブに入ったガッシュ絵具(不透明水彩)を使うことにしました。
ガッシュ絵具の困った特性
不透明水彩という画材は、不透明+水彩 という名が示している通り、塗った後に乾くと非常にマットでのっぺりとした画面になります。塗った直後の艶や光沢 (濡れ色)は非常に奥行きや深みが感じられて、絵がうまく見えますが、乾くとその良さが全くなくなるという困った特性があります。
また、この絵の具はチューブから出して、水で溶かして薄めることもできますが、卵+油+ワニスのメディウムを水の代わりに使えば、発色が良くなり、乾いた後の画面が少しは強固になるようです。
パンフレットなどには、テンペラ画は油絵と水彩の両方の性質をもつと書いてありましたが、油絵っぽさは自分の技法では見当たりません。それを補うために、作品完成後にダンマルワニスを全面に塗って、テカテカにするといったことを一時期したことがあります。ガッシュ絵具(不透明水彩)は乾くと艶がなくなって、がっかりしてしまうため、このようにダンマルワニスを塗って濡れ色を永久に保つという方法もあります。
写本画の中でグラデーションを再発見!
そんなこんなで試行錯誤しながらガッシュ絵具テンペラ画を数枚描きましたが、技法自体はべた塗りが中心でしたので、どうにか奥行きが出せないか、うまく見えるようにならないかと悩んでおりました。
そんなおり、また大学の図書館で西洋中世絵画(写本画)の画集を見ていて、はっと気付きました。
写本画で立体的に見えたり、奥行きが感じられたり、少し写実的に見える部分はグラデーションが使われている、と。
頭のなかでピーンとひらめき、これだ、と思いました。
これが自分がグラデーションで絵を描くことを始めるに至ったきっかけです。
ガッシュ絵具でグラデーションを使ってみたら
下がガッシュ絵具(不透明水彩)で初めてグラデーションを使った作品です。
中央3つの山の部分で、グラデーションを使っています。
上のグラデーションなしの作品にくらべて少しだけ奥行きが感じられます。
その次に描いたのがこの作品です。
さらにグラデーションの使用比率を高め、総グラデーション化を推し進めています。
前よりもさらに少しうまく見えます。(黒の線や金色は油絵の具です。)
グラデーションの効用
グラデーションの効用は単純に言うと、奥行きや深みが増すことにあります。
そのため、誰でもべた塗りしていた部分をグラデーションに置き換えれば、奥行きを感じさせることができ、その結果、少し絵がうまくなったように見せることができるようになります。
とても簡単ですが、効果があります。
混色に苦手意識を持っている人にはぜひ、お勧めしたい技法です。