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卵テンペラメディウムの作り方

この記事の目次

 こんにちは。管理人のりんです。ご訪問ありがとうございます。

自分の絵画展示の紹介文で「水」の代わりに「卵テンペラメディウム」を使用していると書いています。そして「卵テンペラメディウム」ついては「何?」と良く聞かれるのですが、なぜか今まで単体で特集記事にしたことがなかったようです。

そこで今回はタイトル通り、ガッシュ絵の具にも混ぜて使える「卵テンペラメディウムの作り方」を詳しく紹介していきます

準備するものとレシピ

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①サンシックンド リンシードオイル :生卵の1/2ほど

②ダンマルワニス :生卵の1/2ほど

③空きガラス瓶

④生卵:卵黄と卵白の両方

⑤深めの皿

⑥おはし

それぞれの道具の特徴や使い道を以下にまとめました。

① サンシックンド リンシードオイル

油彩用の日晒しあまに油です。

粘度は高く、独特の良い匂いがします。これを加えることで絵の具の伸びが良くなって筆跡の少ないテロっとした光沢のある画面となるそうです。おまじないのようにいつも一応入れています。

使いさしを置いておくと蓋の部分が固まり、次に使う際に往生するので、ラップで口元を包んでから軽く蓋を閉めています。

瓶の注意書きに、これが付着した紙を置いておくと自然発火するというようなことが書いてあるので、液が垂れてティッシュ等でぬぐい取ったら、そのティッシュ等は速やかにナイロン袋などに入れて空気に触れないように処理します。

②ダンマルワニス

ダンマル樹脂をテレビン油で溶かしたもの。テンペラといえばこれを使うらしいです。

これを加えることで、テレビン油が揮発した後にダンマル樹脂が画面を保護するバリアのような働きと接着の効果を出して強靭な画面となるようです。サンシックンドリンシードオイルだけだと粘度が高くて硬すぎるので、これも毎回入れるようにしています。

ダンマル樹脂濃度約30%で溶かしたものが瓶で売っていますので、私はそれを使っています。

凝りたい人は、ダンマル樹脂とテレビン油を別々に買ってきて自作することもできます。

粘度はサンシックンドリンシードオイルの半分くらいですが、手などにつくとベタベタして粘着性を持ち非常に不快です。

使いさしを置いておくと、これも蓋の部分がすぐに固まってしまい、最悪の場合蓋を割らないと使えなくなります。

③空き瓶

メディウムの材料を混ぜ合わせたり、作ったものを保存するために使います。

密閉できる金属のフタが付いたガラス瓶が良いです。プラスチック製品は溶剤によって変形することがあります。

④生卵(たまご・エッグ)

鶏の卵です。卵黄と卵白、つまり黄身と白身の両方を使用します。

黄身が他の材料と混ざりやすくなる成分を持ち、白身のタンパク質が強力な接着剤の役目となり画面に顔料をくっつけて強靭な画面となるようです。

サイズはMくらいが使いやすかったです。たまにLLなど大き目のものを使うと、それまで習慣で目分量で入れていたダンマルワニスやサンシックンドリンシードオイルとの割合が微妙に変化して、やけに粘度が高いメディウムができた記憶があります。

卵の鮮度は新鮮なほど良いです。一度メディウムを作ったら半年以上は冷蔵庫で保管するので、もともとの鮮度は良いに越したことはないです。

余談ですが、数年前に中国に駐在していた頃は普通の地場の卵売り場で買った安い卵など、割ってみたら黄身がほとんど水のようにシャバシャバで分けられないというものが何回かあり、こういうのは全然使えませんでした。

⑤深めの皿

卵白を入れてかき混ぜるために使用します。

普段使っている食器を使うのに抵抗がある場合は、使い捨てのコップなどでも可です。

⑥おはし

卵白をかき混ぜ、下澄み液だけを取り出すために使用します。

これも使い捨ての割りばし等でも可です。

混ぜ方

混ぜ方の順番を一通りおさえると以下のようになります。

1.  卵を割って、「黄身」と「白身」に分ける

2.「白身」を泡立てた後、しばらく置いておく

3.「黄身」に「サンシックンドリンシードオイル」を入れて攪拌する

4.さらに「ダンマルワニス」を入れて攪拌する

5.さらに「白身」の下澄み液を入れて攪拌する

順番に詳しく解説します。

1.卵を割って、「黄身」と「白身」に分ける

卵の殻を半分に割り、片方の殻に黄身を入れ、だらだらと落ちてくる白身を皿で受けます。殻に残った黄身は、ガラス瓶にポイっと投入します。

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「カラザ」という白いひも状のものや、殻のかけらが混入した場合には丁寧に取り除きます。これを入れたまま混ぜると、絵の具を塗る際にこれがべっとりとくっついてきたり、小分け容器の穴をふさいだり、後々いろいろな悪さをします。

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2.「白身」を泡立てた後、しばらく置いておく

皿を斜めに傾けて「おはし」で「白身」をガシャガシャと100回以上攪拌します。

泡がぶくぶくと出てきます。

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そのまましばらくの間放置しておきます。

放置している間、次の作業に取り掛かります。

3.「黄身」に「サンシックンドリンシードオイル」を入れて攪拌する

黄身を入れた瓶にサンシックンドリンシードオイルを全卵のおよそ1/2の量をトプントプンと入れていきます。

さきほど生卵を割った殻があるので、割った殻の片方(1/2)にあらかじめ注いでおけばおおよその目安量となります。

(私の場合は慣れてるのでもっと適当に、大体3回程度トプントプントプンと直接入れて終了です。)

量が多すぎると粘度が高く塗るときに硬くなり、逆に少なすぎると顔料が片寄るような状態でカスレの原因になったりもします。

最近、慣れ過ぎてほんとに適当に入れていたら特にダンマルワニスとの比率がかなりいびつになり、筆の伸びや書き味が気に入らなくて作り直したりすることもありました。今回ブログ執筆にあたって改めて基本比率の重要性に気づかされた次第です。

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入れたら蓋をきっちりしめて、瓶を上下にぶんぶん10回以上強く攪拌します

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混ぜ終わったら蓋を開けて確認します。均一に混ぜ合っていればOKです。

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4.さらに「ダンマルワニス」を入れて攪拌する

ダンマルワニスの瓶の底に、白っぽいダンマルワニスの樹脂が沈殿している場合がありますので、まず蓋をしっかりと閉めて良く振ります。夏の暑い時期は振るだけで沈殿物が溶けてくれました。冬場はお湯につけて温めて振ります。

沈殿物が溶けたら、黄身を入れた瓶にダンマルワニスを全卵のおよそ1/2の量をトプトプと入れていきます。

さきほど生卵を割った殻があるので、割った殻の片方(1/2)にあらかじめ注いでおけばおおよその目安量となります。

量が多すぎると顔料がダマになるような状態で色がかすれる原因になったり、逆に少なすぎると粘度が高く塗るときに硬かったりします。

まずは基本通りの比率で作れば問題ないはずです。

5.「白身」の下澄み液を入れて攪拌する

しばらく放置しておいた「白身を攪拌したもの」から、上層の泡ぶくぶく部分を避けて、下層の液体のみを取り出して、瓶にスーッと注いでいきます。

やり方は、皿を傾けて泡部分を「おはし」の上側で押さえて、下澄み液のみ「おはし」の下側から出るようにします。

注ぎ終わったら、瓶のふたを固く締めてジャバジャバと強く上下に20回程度振ります。

ふたを開けてちゃんと混ざっているか確認します。見た目はおいしそうなプリンのようですがそこまで弾力性はありませんし、「おはし」を入れて上に持ち上げるとすぐに垂れてしまいます。当然食べてはいけない有毒物質なので、そのまま食べたり飲んだりは厳禁です。メディウムが飛散したり付着したものは洗浄消毒するか廃棄することが望ましいです。

保存する

瓶詰めにしたメディウムは冷暗所にて保管します。生卵を使用しているので夏場のクーラーの効いていない所などに、フタを開けたまま置いておくとすぐに腐敗します。冷蔵庫に入れておくと腐敗が進むことをかなり遅らせることが出来ます。1年以上は普通にもちますが、使用して量が減ってきたり、劣化して使い勝手が悪くなるので、完全に腐る前に捨ててしまいます。ただし、保存期間中は入れておいて忘れてしまって、家族が誤飲・誤用してしまうと大変なので、わかるようにしておく工夫は必要です。

私の場合は、ヨーグルトの空き容器の中に入れて直接瓶が見えないようにしています。

フタをしてしまえば、冷蔵庫の中に入れても違和感がありません。

使い方

使うときは、まず瓶から小さな容器に小分けしています。

瓶のまま使用するとその間フタを開けている時間が相対的に多くなり、腐敗の進行が早まります。私は出来立ての硬めのメディウムよりかは、ちょっと傷んだヨレヨレ状態のメディウムを好んで使っていますが・・・

また、小分けする前に再度良く振って中身を混ぜ合わせます。このメディウムはドレッシングと同様に、(卵の)水分と(ダンマルワニス・サンシックンドリンシードオイルの)油分を一緒に混ぜ合わせたものなので、時間の経過とともに水分と油分が分離して上下の層に分かれます。

なので使う際には、必ず良く振って再度混ぜ合わせた状態にする必要があります。いわゆる「エマルジョン」の状態にして使います。

小分けにはスポイトを使用しています。小分け用容器は一滴づつ確実にメディウムを出したいので使い切った目薬の容器を再利用しています。非常に使いやすいですが、いろいろ抵抗のある場合には、新品のタレ瓶や寿司の魚型しょうゆ容器を使ってもよいでしょう。

作ったメディウムはチューブ入りガッシュ絵の具を使う際に、完全に「水の代わり」として使えます。

絵の具の伸びを良くしたいとき、混色するとき、絵の具の量をかさ増ししたいときなどに適宜、数滴づつ加えて混ぜ合わせて使用します。

小分け容器から出して使うときも、まず容器を良く振って混ぜ合わせます。

このメディウムを使うことで、まず絵の表面は乾いた後に耐水性になります。「水」だけを添加した場合、ガッシュ絵の具で描いた絵に水をかけると溶けて流れてしまいますが、このメディウムを使うと水に溶けることは無くなります。

また、耐久性・対候性も「水」だけ添加の場合に比べて強化されることが知られています。西洋中世時代の鮮やかな写本画にも、「卵テンペラメディウム」が使用されています。

私はチューブ入り既製品のガッシュ絵の具に「卵テンペラメディウム」を混ぜ合わせているだけですが、世の中には「顔料」そのものに「卵テンペラメディウム」を混ぜ合わせて「色」を全部自前で作るという人もおられます。

私は試したことがありませんが、ご興味がおありであれば、ガッシュ絵の具以外の画材にも混ぜて見ると面白いかもしれません。

終わりに

終わりにこのメディウム作りの元ネタ(参考)となった文献に触れておきます。

今から30年ちょっと前に西洋中世写本の様式を自身の作品作りに活かしたいと思い、画材屋さんをぶらぶらしていました。1991年か1992年ぐらいのことです。

ある画材屋さんでホルベイン画材から出版(配布)されていた無料の小冊子を見つけて、テンペラメディウムについて詳しく書かれた記事があったため、早速もらってそれを参考に自分で作ってみたら意外とガッシュ絵の具と相性良く使えたという次第です。

そのころはインターネットなど私の周りでは始まってもいない時代でしたので、貴重な資料として繰り返し読んで頭に入れました。

参考文献名(小冊子):ホルベイン 専門家顔料とその素材

一般的なレシピや、特殊なレシピまで参考になることだらけでした。

 

今でもなかなか興味深い内容の資料です。

終わり

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